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インターネットを利用した医療法人の事業報告書等の閲覧に係る各都道府県の方針の違いに関する実態調査

掲載誌 和光経済(和光大学社会経済研究所)
巻・号 第56巻第3号
開始・終了頁 1-10頁
発行日 2024年3月29日
論文掲載サイト 和光大学レポジトリに掲載予定

目次

  1. はじめに
  2. 「医療法人の事業報告書等に係るデータベース構築のための調査研究事業」で明らかにされた情報開示に対する都道府県の意識
    • 都道府県ホームページ等での事業報告書等の閲覧にリスクはあるか
    • 閲覧請求手続の有無
    • 事業報告書等のマスキング
  3. 都道府県における医療法人の事業報告書等のインターネットを利用した閲覧申請の実態調査
    • 調査の方法
    • 調査の結果
      • 都道府県が指定する場所での閲覧以外の方法について案内されているか
      • 閲覧にあたって個人情報の提供を要するか
      • 計算書類等の情報を即日閲覧・入手できるか
      • 計算書類等に記載された個人情報等にマスキングが行われているか
    • 調査結果の考察
  4. 情報開示の効果と都道府県が監督管理を行うために必要な情報が入手できないリスクのトレードオフ
    • 医療法人の大半がオーナー経営者によって運営されている
    • 情報閲覧制度が「関係事業者との取引の状況に関する報告書」への記載内容に影響する
    • 「関係事業者との取引の状況に関する報告書」の閲覧対象からの除外
  5. おわりに

要旨

医療法人が都道府県に対して届け出る事業報告書等は、各都道府県に対して閲覧請求を行うことで誰もが閲覧することができるものとされているが、この事業報告書等の閲覧を具体的にどのように行うかについては都道府県の判断に任されている。第7次「医療法」改正によって新たに作成が義務付けられるようになった「関係事業者との取引の状況に関する報告書」は、医療法人の役員やその親族さらにはこれらの者が運営に関与している法人に関する情報が記載されるものであるため、都道府県がその閲覧を認めるにあたってはより慎重な判断が求められる。

本研究では、各都道府県がインターネット上で行っている事業報告書等の閲覧に係る取扱いの違いについて調査した。調査の結果、届け出られた情報をそのまま開示してしまっている都道府県もあれば、閲覧を認めるにあたって請求者の個人情報を求める都道府県や、情報の一部にマスキングを行っている都道府県も観察された。

「関係事業者との取引の状況に関する報告書」は、個人を特定できる情報が明らかにされることに意味があるものであり、都道府県の「配慮」は情報閲覧制度の趣旨を損ねる可能性もある。また、これらの情報が閲覧対象になることは、医療法人が情報を隠蔽する動機にもなるため、事業報告書等の閲覧制度が、都道府県による医療法人の指導監督にも影響を与える可能性についても検討する必要があるだろう。